自己株式の取得
自己株式の取得とは、株主が保有している株式を、会社が取得することです。
会社が取得した株式には、議決権や剰余金の配当、残余財産の分配といった株主権は無く、株式分割の効果は受けられますが、株式の無償割当の効果は受けられません。
自己株式の取得を行う目的としては、株主への利益還元、株式の分散防止、敵対的買収の防止や事業承継時の税対策等が挙げられます。
また、自己株式の取得には、株主平等の原則や資本維持の原則等の要請から、取得できる場合の限定や財源等の規制が課せられています。
自己株式を取得できる場合
自己株式を取得できる場合として、以下の場合が挙げられます。(会社法第155条、会社法施行規則第27条)
自己株式を取得できる場合
- 取得条項付株式について、取得事由が発生した場合(155条1号)
- 取得請求権付株式について、取得請求があった場合(155条4号)
- 全部取得条項付株式について、取得する旨の決議があった場合(155条5号)
- 譲渡制限付株式の譲渡否承認の場合の株主等からの買取請求があった場合(155条2号)
- 相続人等に対する売渡請求をした場合(155条6号)
- 単元未満株式の買取請求があった場合(155条7号)
- 株主への通知または催告が5年以上継続して到達しない場合の当該株主の株式、または、取得対価が株式である取得条項付新株予約権を取得する際に無記名式の新株予約券証券が提出されない場合の当該対価としての株式について、5年間継続して剰余金の配当が受領されないため、競売に代えて、会社が、「買い取る株式数」と「引き換えに交付する金銭の総額」を定めて買い取る場合(155条8号)
- 会社法第234条第1項各号に定める者に当該会社の株式を交付する際に1株未満の端数がある場合や、株式の併合や分割により1株未満の端数が発生する場合に、その端数の合計数に相当する株式を、競売に代えて、会社が「買い取る株式数」と「引き換えに交付する金銭の総額」を定めて買い取る場合(155条9号)
- 事業全部の譲受の際に、譲渡会社が保有する譲受会社の株式を取得する場合(155条10号)
- 合併に際し、消滅会社が保有する存続会社の株式を承継する場合(155条11号)
- 吸収分割に際し、分割会社が保有する承継会社の株式を承継する場合(155条12号)
- 会社法施行j規則第27条に掲げる場合(155条13号)
- 株主との合意により有償で取得する場合(155条3号)
株主との合意により取得できる場合
▮ すべての株主に申込の機会を与えて有償で取得を行う場合
- 1.株主総会普通決議
- すべての株主に申込の機会を与えて有償で自己株式の取得を行う場合、まず株主総会決議により次に掲げる事項を定めなければなりません。(会社法第156条)
株主総会決議事項
- 取得する株式の数
- 引換えに交付する金銭等の内容及びその総額
- 株式を取得することができる期間(1年以内)
- 2.自己株式の取得条件の決定および株主への通知・公告
- また、自己株式の取得を行う都度、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)で、取得条件として次の事項を均等に定め、株主に通知(公開会社の場合は公告で代替可)しなければなりません。(会社法第157条、158条)
株主への通知事項
- 取得する株式の数
- 株式1株の取得と引換えに交付する金銭等の内容及び数もしくは算定方法
- 引換えに交付する金銭等の総額
- 株式の譲り渡しの申込期日
- 3.株主からの譲り渡しの申込み
- 通知を受け取った株主は、会社に株式を譲り渡す場合は、申込期日までに申込みに係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び数)を明らかにして、譲り渡しの申込みを行います。
株式会社は申込期日において、株主から申し込みがあった株式を譲り受けることを承諾したとみなされます。
ただし、取得する株式数を超える申込があった場合には、
【取得総数 ÷ 申込総数 × 各株主の申込数】
の計算による株式(1株未満の端数切捨て)を譲り受けることを承諾したとみなされます。
▮ 特定の株主から取得する場合(会社法第160条)
株式会社は、特定の株主に対して取得条件に関する通知を行う旨を定め、特定の株主から株式を取得することも可能です。(会社法第160条第1項)
- 1.特定株主以外の株主への通知
- 特定の株主から自己株式の有償取得を行おうとする場合、その前提として、特定の株主以外の株主に対して、当該特定の株主に自己をも加えたものを同項の株主総会の議案とすることを請求できる旨の通知を行う必要があります。
この通知は、会社法施行規則第28条に定める下記の日までに行う必要があります。
<原則>
株主との合意による自己株式の有償取得に関する事項を決定する株主総会の日の2週間前
<例外>
非公開会社・取締役会非設置会社
- 株主総会の招集通知を発すべき時が株主総会の日の1週間以上~2週間を下回る期間前である場合:当該招集通知を発すべき時
- 株主総会の招集通知を発すべき時が株主総会の日の1週間を下回る期間前である場合:株主総会の1週間前
その他
株主全員の同意により招集手続を省略して株主総会を開催する場合:株主総会の日の1週間前
会社法施行規則
(特定の株主から自己の株式を取得する際の通知時期)
第28条 法第160条第2項に規定する法務省令で定める時は、法第156条第1項の株主総会の日の2週間前とする。
ただし、次の各号に掲げる場合には、当該各号に定める時とする。
1 法第299条第1項の規定による通知を発すべき時が当該株主総会の日の2週間を下回る期間(1週間以上の期間に限る。)前である場合 当該通知を発すべき時
2 法第299条第1項の規定による通知を発すべき時が当該株主総会の日の1週間を下回る期間前である場合 当該株主総会の日の1週間前
3 法第300条の規定により招集の手続を経ることなく当該株主総会を開催する場合 当該株主総会の日の1週間前
なお、下記の場合には、他の株主への通知は不要です。
他の株主への通知が不要となる場合
- 定款に会社法第160条第2項、第3項の規定を適用しない旨の定めがある場合(会社法第164条第1項)
- 取得する株式が市場価格のある株式で、1株あたりの取得対価が法務省令に基づき算定される市場価格を超えない額である場合(会社法第161条)
- 相続人等一般承継人から承継した株式を取得する場合(公開会社である場合および既に承継人が株主総会で当該株式の議決権を行使している場合は除く)(会社法第162条)
- 子会社から取得する場合(会社法第163条)
- 2.特定の株主以外の株主からの請求
- 特定の株主以外の株主は、自身も特定の株主に含めてほしい場合、
・上記原則の場合、株主総会の日の5日前まで
・上記例外の場合、株主総会の日の3日前まで
に会社に請求しなければなりません。(会社法第160条第3項、会社法施行規則第29条)
なお、この日数は定款の定めにより短縮可能です。
- 3.株主総会普通決議(会社法第156条第1項)
- この株主総会では会社法第156条第1項に基づく下記事項のほか、会社法第158条第1項に定める通知を、特定の株主に対して行う旨を決定します。
・取得する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
・株式を取得するのと引換えに交付する金銭等(当該株式会社の株式等を除く。)の内容及びその総額
・株式を取得することができる期間
なお、当該特定の株主は、この株主総会で議決権を行使することができません。
- 4.自己株式の取得条件の決定および株主への通知・公告
- 特定の株主から自己株式の有償取得を行う都度、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)で、取得条件として次の事項を均等に定め、株主に通知(公開会社の場合は公告で代替可)しなければなりません。(会社法第157条、158条)
株主への通知事項
- 取得する株式の数
- 株式1株の取得と引換えに交付する金銭等の内容及び数もしくは算定方法
- 引換えに交付する金銭等の総額
- 株式の譲り渡しの申込期日
- 5.株主からの譲り渡しの申込み
- 通知を受け取った株主は、会社に株式を譲り渡す場合は、申込期日までに申込みに係る株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び数)を明らかにして、譲り渡しの申込みを行います。
株式会社は申込期日において、株主から申し込みがあった株式を譲り受けることを承諾したとみなされます。
ただし、取得する株式数を超える申込があった場合には、
【取得総数 ÷ 申込総数 × 各株主の申込数】
の計算による株式(1株未満の端数切捨て)を譲り受けることを承諾したとみなされます。
財源規制(会社法第461条)
下記を除く有償の自己株式取得について、会社法第461条による財源規制が課せられています。
財源規制が課せられない自己株式の取得
- 単元未満株式の取得
- 他の会社の事業全部の譲り受けの際に当該他の会社保有の自己株式の取得
- 合併消滅会社からの自己株式の承継
- 吸収分割会社からの自己株式の承継
- 法務省令で定める場合
自己株式の取得に基づいて株主に交付する金銭等の帳簿価格の総額は、自己株式取得の効力発生日における分配可能額を超えることはできません。(会社法第461条第1項)
▮ 分配可能額
分配可能額とは、下記計算式のとおりです。
分配可能額 =(①+②)-(③+④+⑤+⑥)
分配可能額計算式の内容
①剰余金の額
②臨時計算書類につき会社法第441条第4項の承認(同項ただし書に規定する場合にあっては、同条第三項の承認)を受けた場合における次に掲げる額
イ 第441条第1項第2号の期間の利益の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
ロ 第441条第1項第2号の期間内に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
③自己株式の帳簿価額
④最終事業年度の末日後に自己株式を処分した場合における当該自己株式の対価の額
⑤上記②の場合における第441条第1項第2号の期間の損失の額として法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
⑥上記③④⑤のほか、法務省令で定める各勘定科目に計上した額の合計額
株式の消却
株式の消却とは、保有する自己株式を消却する手続です。
自己株式の取得手続により取得した株式は、そのまま自社保有株式として残ります。そのため、募集株式の発行や株式の無償割当を行う際に、改めて当該自己株式を割り当てることが可能であり、登記事項である発行済株式総数も変動することはありません。
もし、取得した自己株式分の発行済株式総数を減少させたい場合は、株式の消却を行う必要があります。
手続
株式の消却は、取締役会決議または取締役の過半数の決定によって行うことができます。
この場合、消却する自己株式の数(種類株式発行会社にあっては、自己株式の種類及び種類ごとの数)を定める必要があります。
なお、公開会社は通常、発行可能株式数は発行済株式総数の4倍を超えることができませんが、株式の消却の結果、発行可能株式総数が発行済株式総数の4倍を超えても問題ありません。
効力発生日
株式の消却の効力発生日は、株式の消却事務手続の終了日とされます。
具体的には、株主名簿の抹消記載完了日となるものと存じます。
登記の日付は、効力発生日になるため自社で株主名簿を管理している場合は、株式の消却決議に際して株主名簿の記載完了予定日を、株式の消却の効力発生予定日として併せて決議しておくと良いでしょう。
登記手続
▮ 必要書類
- 取締役会議事録 または 取締役決定書
- 登記委任状(ご依頼頂く場合)
▮ 登録免許税
金3万円(登録免許税別表1.24.(1)ツ)
お問い合わせ
自己株式の取得手続および株式の消却手続について、ご相談等ございましたらお気軽にお問い合わせください。
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