強制執行とは

金銭債権に関する強制執行は、執行力のある債務名義に基づいて、債務者が保有している財産を差押え、強制的に債権回収を図る手段です。

対象財産は多岐にわたりますが、大きく分類して不動産・動産・債権に分けられます。

この中で、不動産は、(根)抵当権や差押、仮差押の有無が登記事項証明書により明らかになるため、売却が見込める不動産であれば強制執行すべきか否か判断がつきやすい財産です。

ただし、その前提として「予納金」を裁判所へ納める必要があります。この「予納金」は少なくとも50万円ほどかかるため、容易に行うことはできません。

また、動産は、「66万円」までは差押禁止財産とされており、それを超える財産がなければ功を奏しません。そのため、あらかじめ価値のある財産を所持していることが分かっている場合でなければ、空振りに終わることも少なくなく、また不動産ほどではないものの「予納金」も必要となります。

これらを踏まえ、今回の法改正により、債権、とりわけ「給与債権」と「預貯金債権」が他の財産と比較して、より強制執行を行いやすくなりますので、以下、この二つに対する強制執行の手続について記載させて頂きます。


詳しい手続についてはこちら

令和2年4月1日民事執行法改正による主な変更点

1.財産開示手続の見直し(改正法196条~)

(1)債務名義の種類の拡張

「仮執行宣言付判決」「支払督促」「執行証書」を保持している方も財産開示手続を利用できるようになります。例えば、養育費の支払いについて裁判所を通さず、公証役場において公正証書で約束をした場合にも財産開示手続を利用できるようになります。

※ 執行証書とは

金銭の一定の額の支払又はその他の代替物若しくは有価証券の一定の数量の給付を目的とする請求について公証人が作成した公正証書で、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているもの(民事執行法第22条第5項)

(2)罰則の強化

従来の財産開示手続では、開示義務者が不出頭・陳述拒絶等により開示に応じない場合の罰則が最大でも「30万円以下の過料」(行政罰)でした。

改正法では、「6月以下の懲役または50万円以下の罰金」(刑罰)となります。 


財産開示手続についてはこちら

2.債務者の各種情報の取得制度の新設

金銭債権に対する執行力ある債務名義(給与債権については「養育費等扶養義務に係る請求権」及び「生命・身体の侵害による損害賠償請求権」に限る)を保有している債権者等の申立てにより、裁判所から行政機関ないし金融機関に対し、

  • 不動産(改正民事執行法第205条)
  • 給与債権(勤務先等)(同206条)
  • 預貯金債権等(同207条)

に係る情報提供を命じる手続が新設されました。


各種情報の取得について はこちら

給与債権に対する強制執行手続

上図は、給料差押にあたっての関係性を示すものですが、給料差押を行うにあたっての大前提として、相手方債務者の勤務先が分かっていなければなりません。

また仮に勤務先が分かっており、うまく給料の差押えができたとしても、「差押禁止」部分があるため、債権額が高額な場合、一度での回収は困難であり、全額回収する前に退職されてしまうと、新たな勤務先に対して給料の差押えを行わない限り、それ以上の回収はできなくなってしまいます。そして、退職後の新たな勤務先を調査することは難しく、結果、全額の回収には至らないことになってしまいます。

この点について、今回の法改正により、「養育費等の扶養義務等に係る請求権」「生命身体の侵害による損害賠償請求権」についての執行力のある債務名義の正本を有する債権者の申立てにより、裁判所が市町村や日本年金機構、国家公務員共済組合、国家公務員共済組合連合会、地方公務員共済組合、全国市町村職員共済組合連合会又は日本私立学校振興・共済事業団(以下、「市町村等」という。)へ債務者の勤務先等の情報提供を命じる手続が新設されます。

債権の種類が限定的ではあり、また財産開示手続を行うことが前提の手続にはなりますが、この手続を活用することで、例えば、これまで養育費の取り決めに対して、実際には支払われず、相手方の勤務先がわからず回収を図ることができなかった方や、一度は給料差押に成功したもののまもなく退職され、その後の勤務先が判明せず、改めて給料差押をすることができなくなってしまった方について、回収可能性が高まるものと存じます。

預貯金債権に対する強制執行手続

上図は、預貯金の差押にあたって、その関係性を示すものですが、預貯金差押を行うにあたっての大前提として、相手方債務者の預貯金がある金融機関及び支店が分からなければなりません。

これまでは、相手方債務者の銀行口座がわからない場合には、住所地周辺の金融機関の支店に狙いを定めて差押えを行うなど、当たりはずれの大きい手段をとることしかできませんでしたが、今回の改正により、金銭債権について執行力のある債務名義の正本を有する債権者等の申立てにより、裁判所が金融機関へ相手方債務者の預貯金口座の情報提供を命じる手続が新設されます。

勤務先情報とは異なり、金銭債権であれば債権の種類は限定されず、また必ずしも財産開示手続を前もって行う必要もないことから、使い勝手は良く、これにより、口座がないことによる差押えの空振りは防止でき、預貯金に対する差押による債権回収の実効性が高まるものと存じます。

手続の流れ

執行力のある債務名義の取得
ただし、勤務先情報の提供手続については下記債権に関するものに限る。
 □ 養育費等の扶養義務等に関する請求権
 □ 生命身体の侵害による損害賠償請求権
財産開示手続
勤務先情報の提供手続の場合必須
情報の提供手続
強制執行(給料または預貯金差押)
情報提供手続に基づき給料や預貯金に対して債権執行の申立てを行います。