相続登記の義務化と相続登記に関する改正
すでにご存じの方も多いと思いますが2024年4月1日から相続登記が義務化されました。
それを見据えてか相続登記をより行いやすくするため、その前年2023年4月1日に相続に関連する登記の手続方法について、いくつかの改正がありました。
今年に入り、2023年4月1日改正にかかる登記について実際に行う機会がございましたので事例を交えてご紹介させて頂きます。
①法定相続登記後の遺産分割による登記
事例1
不動産の登記名義人である被相続人甲さんが2023年に死亡し、子である相続人AさんとBさんは、来年から相続登記が義務化されるという情報を基に、法律で決まった割合でしか相続できないものと考え、ご自分たちで法務局で2分の1ずつの割合による共有となる法定相続による登記を行いました。
ところがその後、遺産分割協議を行う事により、どちらか一人の名義にする事が可能という事を知り、当該不動産にはBさんご家族が現在お住まいでしたのでBさん名義の登記し直したい、とお二人でご相談にいらっしゃいました。
上記事例1の場合、改正前の取扱いによりますと、遺産分割を原因として改めてAさんの共有持分をBさんに移転する登記が必要になります。
一方、改正後の取扱いによりますと、従前行った法定相続による登記を更正して初めからBさんお一人で相続した登記に直すことが可能となりました。
この改正前後の手続的な違いは下記のとおりです。
改正前
- 法務局に納める登録免許税額は、移転登記によるため、固定資産税評価額 × 持分割合 × 1000分の4(上記事例1で評価額が1000万円の場合、登録免許税額は2万円)
- Aさん、Bさん双方から登記申請を行う必要があるため、Aさんの登記識別情報または登記済証その他書類が必要
改正後(現在)
- 法務局に納める登録免許税額は、更正登記によるため、不動産1個につき1,000円(上記事例1で不動産が土地建物合計2物件の場合、登録免許税額は2,000円)
- Bさん単独で登記申請が可能
- Aさんに対し、法務局からBさんによる更正登記の申請があった旨の通知が届く。
なお、更正登記による方法は、上記事例のほか法定相続による登記後、下記の登記を行う場合にも可能です。
- 他の相続人の相続の放棄による所有権の取得に関する登記
- 特定財産承継遺言による所有権の取得に関する登記
- 相続人が受遺者となる遺贈による所有権の取得に関する登記
②相続人に対する「遺贈する」旨の遺言に基づく登記
事例2
不動産の登記名義人である被相続人乙さんが2023年に死亡し、配偶者であるCさんが遺言公正証書をお持ちになってご相談にいらっしゃっいました。
その内容を確認したところ、不動産について、Cさんに「相続させる」との記載ではなく「遺贈する」との記載で、ご事情をお伺いしたところ、作成した当時は入籍しておらず、その後入籍して現在に至るとの事でした。
作成時点では、Cさんは乙さんの推定相続人ではなかったため「遺贈する」と記載せざるを得なかったものと存じます。
なお、乙さんの相続人は配偶者Cさんとご兄弟(代襲相続あり)のみで、遺言執行者の指定もありませんでした。
上記事例2の場合、改正前の取扱いによると、遺言が「遺贈する」との内容である以上、受遺者であるCさんを権利者、乙さんの相続人全員または遺言執行者を義務者として所有権移転登記を行う必要がありました。
乙さんの相続人はCさん及び乙さんのご兄弟です。そのため、ご兄弟の皆様のご協力が得られない場合、家庭裁判所への遺言執行者の選任申立てを行うなど、手続が煩雑になる事が見込まれるところでした。
ところが、改正後は「相続人」に対する遺贈による登記は、当該受遺者である相続人が単独で登記申請ができるようになりました。この改正後は、改正以前のケースにも適用されますので、以前に相続人の方の協力が得られず登記手続を保留になさった方につきましても、現在は単独で登記申請を行う事が可能です。
ちなみに、上記事例2において、遺言作成後、もしご入籍なさっていらっしゃらなかった場合は、Cさんは相続人にはあたりませんので、遺贈による登記手続を行うためには、従前どおり、相続人の皆様のご協力等が必要となります。